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熊本家庭裁判所八代支部 昭和50年(家)109号 審判

申立人 森田忠一(仮名)

事件本人 森田勝(仮名) 外一名

主文

事件本人森田勝、同森田正二を禁治産者とする。

事件本人両名の後見人として森田陽子(本籍八代市○○○○町×××番地、住所八代市△△△△町○○○番地の○)を選任する。

理由

一  申立の趣旨および実情

(1)  申立の趣旨

事件本人森田勝、同森田正二を準禁治産者とする。

事件本人両名の保佐人として森田陽子を選任する。

(2)  申立の実情

申立人は事件本人森田勝、同森田正二の父であるところ、事件本人森田勝は昭和三五年一月二三日から現在に至るまで精神薄弱併真性てんかんにより、同森田正二は昭和三八年六月一六日から現在に至るまでてんかん性精神病によりそれぞれ医療法人八代精神病院に入院しており、いずれも心神耗弱者であるので準禁治産の宣告を求めるとともに、保佐人には事件本人両名の母であり、その監護に専念している森田陽子の選任を求める。

(3)  申立後の事情および新たな申立の趣旨の追加

本件申立後、当裁判所が申立人に対し鑑定の結果を告知したところ、申立人は、事件本人森田勝、同森田正二のために当裁判所において禁治産の宣告をされても異議ない旨申立てて、その場合には事件本人両名の後見人として上記森田陽子を選任されたいと申立てた。

二  当裁判所の判断

本件記録中の戸籍謄本、医師梶原三郎の診断書二通(事件本人森田勝、同森田正二に関するもの各一通ずつ)、鑑定人医師梶原三郎の鑑定書二通(事件本人森田勝、同森田正二に関するもの各一通ずつ)、当裁判所の申立人本人および被審人森田陽子の各審問結果を総合すると、

(1)  事件本人森田勝は、昭和二〇年一〇月一九日申立人と森田陽子の長男として出生したが、先天性の精神薄弱のため幼少時より知能の発育が悪く、聾学校に二年寄宿したのみで就学しなかつたこと、昭和三四年四月頃てんかんの大発作があり治療を受けたりしていたが、昭和三五年一月二三日から医療法人八代精神病院に入院し現在に至つていること、同人の病名は精神薄弱(興奮型)併真性てんかんであつて、病室内では時には大小便を失禁したりして日常生活の身辺処理も介助を要する状況にあり、知能的には自己の生年月日はおろか簡単な計算も全くできず白痴に等しい状態であり、また、病院内では着衣を破損したり、独語したり、原因もなく号泣したりして感情も鈍磨し、事理弁別、財産管理は勿論社会的責任能力は全く有しないし、将来においても治療効果は望めないこと、

(2)  事件本人森田正二は、昭和二三年二月一日申立人と森田陽子との二男として出生したが、先天性のてんかん性精神病のため小学三年生のころからてんかんの発作が起きるようになつて知能の発育も遅れる一方となり、中学校に入学してからは登下校中にてんかんの大発作が何回も起き学校側から入院の相談を受けたこともあるほどで、申立人らの強い支えで中学校は卒業したものの、卒業後は家庭内では介護できないため、医療法人八代精神病院に入院して現在に至つていること、同人の病名は先天性のてんかん性精神病であつて、入院後においても、着衣を破損したり、突発的に興奮し看護者に反抗して保護室に収容されることもしばしばあり、また、月に数回はてんかんの大発作が起こり意識朦朧状態に陥つたりしていること、知能的には自己の年齢もわからず、簡単な計算もできない白痴に近い状態であつて、身のまわりの始末がかろうじてできる程度であり、事理弁別、財産管理は勿論社会的責任能力は全く有しないこと、同人の病状は固定して、将来においても治療効果は望めないこと

が認められ、右事実によれば、事件本人森田勝、森田正二はいずれも自己の行為の結果について合理的な判断能力がなく心神喪失の常況にあるものといわなければならない。

ところで、本件は事件本人両名が心神耗弱者であることを理由として準禁治産宣告の申立がなされたところ、審理の結果、事件本人両名が心神喪失の常況にあるものと認められる事案であるが、元来、心神耗弱と心神喪失とは精神障害の程度の差であつて、その差に対応して事件本人の行為能力の制限に度合いの差が設けられているにすぎず、禁治産、準禁治産の制度は互にその制度の趣旨を共通にするものであること、しかも、本件においては申立後申立人としても事件本人両名に対し禁治産宣告がなされても異議ないこと、その場合には後見人として事件本人両名の母である森田陽子を選任することを求める旨追加して申立てているのであつて、以上の点にかんがみ、本件については事件本人両名について禁治産の宣告をなし、あわせて後見人の選任をなすことを妨げないものと解する。

よつて、事件本人森田勝、同森田正二についていずれも禁治産の宣告をなすこととし、後見人としては当裁判所の申立人本人および被審人森田陽子の各審問結果により事件本人両名の母である森田陽子を選任するのが相当であると思料するので、主文のとおり審判する。

(家事審判官 神吉正則)

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